みどりの風著・三軒茶屋ニコ 人と人との縁があるように東京在住の写真家・雑賀雄二さんにとっても軍艦島は、切っても切れない縁がある。「古里・名古屋以上のところ」といっても誇張ではない。 中学に入った年に百科事典を入学祝いに買ってもらいました。ぐんかんじま︱︱長崎市の港外に浮かぶ端島の別名。 「軍艦の写真はなく、それに似た島の全景があった。運命的な出会いとなりました」 大学三年の時、端島鉱の閉山を知りました。 無人島と化す直前に渡り、初めてシャッターを切ります。これから十年、今度は写真家で来島。「島で独り泊まると時間の感覚がなくなり、島ごと異質の海と航海している気持ち」になったそうです。 そんな錆さびついた時の流れに身を任せ、荒涼とした廃墟を写真に撮り「軍艦島︱︱棄てられた島の風景」の写真集を出した。その島では人間に棄てられた物がナマの姿をさらけ出しつつあった。この魅力が次の創作意欲を駆り立てました。 以後、年に数回、泊まり込み取材。ある夜テントの外が妙に明るかった。満月でした。月下の「死の島」は、それまでと違っていました。 海も風までも生きている。 岸壁が生と死の境を縫うように月に向かっている。これをテーマにシリーズ「月の道 海・月光・軍艦島」を出版しました。 月の光だけで撮った作品群。九月末の満月をながめていたら雑賀さんの作品を思い出しました。蔵書だけは大切にするのですが、雑賀さんの作品がどこにもありません。もう探すのを諦め、天空に輝く月の輝きを目が痛くなるほどながめています。 軍艦島も廃墟の島でしたが逆転の発想で長崎市の観光の目玉になっています。 映画007シリーズでは、007の天敵が彼らの巣くつとして軍艦島を舞台に世界の目が集まりました。これには映画プロデューサーの目のつけどころに敬服しましたネ。 観月招宴の行事では古代孝元帝の御代に始まったとされているが、この観月とは中秋の名月(陰暦八月十五日)のこと。このように月を愛で月を遙よう拝はいする行事も多彩。 雑賀さんはどうしているのか。三十年近く消息は絶っています。七十代になったのかな。 以前、教会群シリーズが文部大臣奨励賞を受けていたから、そのうち文化功労者、そして文化勲章も。 今年の満月をながめながら切に思いました。これが世の中の生き方ですね。もう一人いました。 自由律の尾崎放哉さん。「こんなよい月を一人で見て寝る」 これも実にいい。軍 艦 島2
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