こぶれ2017年10月号
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 夏の暑さと言うより、炎天にこがされるのでは……と恐怖?におびえる時、元気づけられる嬉しい贈り物が届きました。 諫早の高来町出身で都内に在住の作家、浦野興治さんから最新刊「夏休み物語」(右文書院)。 今から二十年前かな。ふるさと諫早湾にムツゴロウ、シャコ、アサリなどおう歌する干潟の海を舞台に、少年たちの夏休みを活写したもの。 雑誌連載の頃から出版が待ち遠しかった作品で暑さもなんのその、一気に読破です。 副題も「ぬっか(あつい)夏の風物詩」。いいですね。 読みたい小説は、きっといい作品、面おも白しろくて楽しい本。物書きの基本を熟知しています。さすが浦野さん。 夏休み物語は「貝掘り」「花火」「海水浴」「お盆」の四章から成る。 印象にあるのはポンポン船で行く干潟の海の描写。手の届きそうな対岸の島原半島の近くまで。反対側は多良岳と緑一色になった田圃が見える。 主人公・裕二(筆者)はガタの海で滑すべり板いたも上手でない。泳ぎもヘタなので貝掘りについていけず、ひとりぽっちの行動。  船の付近をウロウロするうち、大きな穴を見つける。 ――ドキドキしながら穴の中に手を突っ込む。案あんの定じようかすかに指先にふれるものがいます。 どんどんガタの中に手を突っ込んでいきます。肩がガタに届くくらいやりますと、昼に食べた握にぎり飯めしぐらいの大きさ。 魚でなく貝に触りました。石ではない。表面にギザギザが付いている。 ぬるっとしている。まさかアカガイ? アカガイは滅多に採れない高級貝。値段も高く裕二少年の歓喜の様が浮かぶ。 遠くふるさとの方向を見ればギラギラ照り返す鉄路。 長崎本線だ――この瞬間、浦野さんの世界から六十年ぐらい前の筆者の夏休み。 夏休みに入ると対馬から祖母のいる諫早市に素すっ飛んで行きました。 対馬・厳原港から博多港約八時間。博多駅から鳥栖乗り換え諫早市まで三時間ほど。 夕闇迫る中、鹿島を過ぎ、ガタのにおいの海で本県入り。 湯江、小江、高来……指折り数え、じっと息をのみます。 「祖ばあちやん母に会える」。裕二クンがガタで手を突っ込み、アカガイに触れるような気持ちです。動悸が波打ちます。 浦野さんの「海水浴」は大村湾の横島。夏の間だけ臨時駅がありました。裕二クンの父が国鉄勤務で汽車賃、海の家の割引券があった。よかったなぁ。 汽車に乗ったことはありません。遊び友達と徒歩。国道をテクテク約一時間以上。長崎行きのボンネット型のバスが時たま走るぐらい。車も少なく安全でした。 横島にはアイスキャンデー屋さんがいます。その旗を見ると急ぎ足でした。  諫早―横島の汽車賃を節約すれば買えました。 遠い遠い記憶の底から、戦後の不況、物資不足の中で、躍動する筆者たちの少年時代は、裕二クンと一緒。本当の宝物になりそうです。 二度と還かえることが出来ないだけに、です。 浦野さんの「夏休み物語」に一読者として感謝です。 ありがとう。夏休み物語2

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